
加重移動平均・指数移動平均と区別するため、前回・前々回の記事で述べたような移動平均を「単純移動平均」と呼ぶことがある。
ドル/円日足(上図)の赤い線、「単純移動平均1」とあるのが本来の移動平均線で、12月24日終値から計算された平均値は、12月8日の位置にプロットしてある。そう、移動平均は役に立つのか #2 の25日移動平均線と同じものである。
紫色の線、「単純移動平均2」とあるのが多くのトレーダーにもお馴染みの、ただし本来的ではない移動平均線である。 青い線が加重移動平均、緑色の線が指数移動平均で、赤い線と比較するため、いずれも平均期間は25日にしてある。
加重移動平均・指数移動平均が、例の「遅延」を埋めるためのものならば、要は赤い線、本来の移動平均に近似する何かを作りたかったのだと解釈できる。やや近づいているようにも見えるし、さほど努力が実っていないようにも見える。
それぞれの計算法は省略するが、簡単に解説すれば、直近のデータに重みを与えた平均である。いや、もはや平均でさえない気もする。平均値の位置をずらした時点で科学から遠のき、それこそ「乖離」ていたのに、さらに怪しさを増している。
だが、いかに怪しくとも、実践に役立つなら問題ないではないか。
かつてメリル・リンチ社が、1970~76年にわたる商品市場のデータから、単純・加重・指数のうちの最適な移動平均、最適な平均期間を検証している(ジョン・J・マーフィー『先物市場のテクニカル分析』きんざい参照)。無論、検証に使われたのは、トレーダーにお馴染みの位置へプロットしたものである。結果を見てみよう。
最適期間 | 累積純損益 | トレード回数 | 勝ちトレード数 | 移動平均タイプ | |
ココア | 57日 | $ 99,080 | 619 | 166 | 指数移動平均 |
トウモロコシ | 43日 | 24,646 | 565 | 126 | 単純移動平均 |
砂糖 | 60日 | 270,402 | 492 | 99 | 単純移動平均 |
綿花 | 57日 | 68,685 | 641 | 121 | 単純移動平均 |
銀 | 19日 | 42,920 | 1,393 | 429 | 単純移動平均 |
銅 | 59日 | 165,143 | 432 | 158 | 単純移動平均 |
大豆 | 55日 | 222,195 | 728 | 151 | 単純移動平均 |
大豆粕 | 41日 | 31,385 | 1,128 | 235 | 加重移動平均 |
小麦 | 41日 | 65,806 | 480 | 124 | 単純移動平均 |
ポークベリー | 19日 | 97,925 | 774 | 281 | 単純移動平均 |
大豆油 | 34日 | 106,996 | 1,198 | 303 | 加重移動平均 |
合板 | 68日 | 1,622 | 372 | 98 | 単純移動平均 |
豚肉 | 16日 | 35,595 | 1,093 | 318 | 単純移動平均 |
加重移動平均・指数移動平均の考案者の努力、実らなかったようである。