
たとえば、移動平均は役に立つのか #1 には、11日・20日の移動平均の組み合わせが例示してある。 売買を続ければ、破産は避けられない指標である。
なるほど、必ず10日上げて10日下げる相場が存在するはずはない。 とはいえ偶然、移動平均を最悪の組み合わせで使っている可能性も否定できない。悪魔の指標を信仰しているかもしれない自分自身へ、まず警戒の目を向けておこう。
幸いにもメリル・リンチ社が単純移動平均の有効性ばかりか、利益の上がる平均期間まで明らかにしてくれた。過去のデータを吟味して最適化を施せば、悪魔の組み合わせからも逃れられる。われわれの疑いを払拭するに足る調査である。
しかし、世界で一流といわれるトレーダーは、流石にわれわれの上を行く。
メリル・リンチ社の使ったデータは、1970~76年にわたるものであった。ラリー・ウィリアムズ(写真)はこの調査結果に基づき、1976~80年の取引によって再検証したのである(ラリー・ウィリアムズ『相場で儲ける法』日本経済新聞社参照)。単純移動平均を使った再検証の結果を以下に示す。
累積純損益 | トレード回数 | 勝ちトレード数 | |
銀 | $ -30,700 | 98 | 26 |
大豆 | -3,775 | 18 | 2 |
ポークベリー | -48,898 | 174 | 36 |
生牛 | -6,700 | 28 | 3 |
さて、メリル・リンチ社が2本の移動平均を組み合わせる方法も調査していたことは、既に述べた。 上の表は、その結果の一部。下の表はラリー・ウィリアムズが同じ組み合わせを使い、1979~85年のデータによって再検証した結果である。
最適期間 | 累積純損益 | トレード回数 | 勝ちトレード数 | |
銀 | 3日・26日 | $ 10,790 | 661 | 262 |
大豆 | 16日・50日 | 286,440 | 311 | 148 |
ポークベリー | 25日・46日 | 13,124 | 226 | 100 |
生牛 | 7日・13日 | 147,540 | 792 | 337 |
累積純損益 | トレード回数 | 勝ちトレード数 | |
銀 | $ -7,800 | 173 | 88 |
大豆 | -2,360 | 119 | 43 |
ポークベリー | -760 | 78 | 42 |
生牛 | -230 | 18 | 11 |
何しろ移動平均については極めてよく言及されており、相場の初心者の多くがこのアプローチに取り憑かれることは問題だと思う。 (中略) 過去20年以上にわたって、私はさまざまな数値、システム、アプローチを見てきた。しかし、移動平均を用いたアプローチで一貫して利益をあげている人には出会ったことがない。(ラリー・ウィリアムズ、同上書)
例の悪魔の組み合わせは、実は最強の組み合わせでもある。11日移動平均線が20日移動平均線を上抜いたとき、売りに入り、下抜いたとき、買いに入ればいい。 百発百中で損をする指標こそ聖杯なのだが、残念ながら移動平均は聖杯ではない。
下駄の裏表で売買を占うのと同じで、儲けもすれば損もする。
誰もが取り憑かれる指標であれば、おそらく誰もが、大きく利益を上げた経験をもつに違いない。往々にして人は利益の記憶だけを残し、損失の記憶を消し去って、下駄でさえも有効な指標に仕立て上げたりする。信仰とは、そういうものである。