2015/12/05
ヘッジファンドの帝王ジョージ・ソロスも逸話の多い人物だが、なかでも私が好きなのは次のような話である。
あるパーティーでの席上、隣り合わせた小説家のメアリー・ブレステッドにこう尋ねられた。初めてお金儲けが好きだと気づかれたのは、いつ頃ですか。ソロスは、こう答えたという。
「金儲けは好きではありません。ただ、うまいだけです」
贅沢も好まず、どこか求道者の雰囲気さえただようソロスだが、そんな彼が20代の頃、哲学者カール・ポパーに心酔していたのは、そこそこ有名であったりする。彼がたびたび語る可謬性 fallibility も、ポパーの哲学を継承したものである。
哲学に対しては相当、未練があったらしい。1995年、ソロスはウィーンの人文科学研究所で「挫折した哲学者の再挑戦」と題する講演をおこない、こう述べている。
投機家と哲学の取り合わせは、さほど奇妙なものではない。なにしろ「最初の哲学者」と呼ばれるタレスは、世界最初の投機家でもあったのである。
タレスは紀元前7世紀、小アジア西岸の都市ミレトスに生まれている。例のエレクトロン貨も鋳造されて、商工業が隆盛を極めていた時代である。
ある夜のこと、星を眺めていたタレスは井戸に落ちてしまう。「足元のこともお気づきにならないのに、天上にあるものを知ることができるんですか」と下女に笑われる。かと思えば彼は、「世界の根源は水である」などと途方もないことを言い出す。
そんな様子だから、当然のごとくに貧乏暮らしである。
これを見た人々は、「哲学など役に立たない」と馬鹿にする。哲学のために意を決したタレスは、冬のうちに、わずかな手付けでオリーブ圧搾機をすっかり借り受けた。天体に関する知識を活用し、オリーブの豊作を予測したのである。
やがて、オリーブの収穫期。にわかに圧搾機が必要となった大勢の人々に、タレスは言い値でそれを貸し出した。大儲けの彼は語ったという。
「哲学者が欲するなら、金儲けは容易である。ただ真剣に取り組むものでもない」
そう、タレスもまた金儲けが好きではなく、ただ、うまかったのである。この話は、アリストテレスの『政治学』第1巻に記録されている。ソロスが哲学者になり損ねた理由が、その真剣な取り組みにあったとすれば皮肉である。
あるパーティーでの席上、隣り合わせた小説家のメアリー・ブレステッドにこう尋ねられた。初めてお金儲けが好きだと気づかれたのは、いつ頃ですか。ソロスは、こう答えたという。
「金儲けは好きではありません。ただ、うまいだけです」
贅沢も好まず、どこか求道者の雰囲気さえただようソロスだが、そんな彼が20代の頃、哲学者カール・ポパーに心酔していたのは、そこそこ有名であったりする。彼がたびたび語る可謬性 fallibility も、ポパーの哲学を継承したものである。
哲学に対しては相当、未練があったらしい。1995年、ソロスはウィーンの人文科学研究所で「挫折した哲学者の再挑戦」と題する講演をおこない、こう述べている。
金儲けの大切さも承知していますが、いずれは偉大な哲学者として認められればと願っています。そうなれば、莫大な財産を築くより、はるかに大きな充足感が得られると思うのです。(M. T. カウフマン『ソロス』ダイヤモンド社)
投機家と哲学の取り合わせは、さほど奇妙なものではない。なにしろ「最初の哲学者」と呼ばれるタレスは、世界最初の投機家でもあったのである。
タレスは紀元前7世紀、小アジア西岸の都市ミレトスに生まれている。例のエレクトロン貨も鋳造されて、商工業が隆盛を極めていた時代である。
ある夜のこと、星を眺めていたタレスは井戸に落ちてしまう。「足元のこともお気づきにならないのに、天上にあるものを知ることができるんですか」と下女に笑われる。かと思えば彼は、「世界の根源は水である」などと途方もないことを言い出す。
そんな様子だから、当然のごとくに貧乏暮らしである。
これを見た人々は、「哲学など役に立たない」と馬鹿にする。哲学のために意を決したタレスは、冬のうちに、わずかな手付けでオリーブ圧搾機をすっかり借り受けた。天体に関する知識を活用し、オリーブの豊作を予測したのである。
やがて、オリーブの収穫期。にわかに圧搾機が必要となった大勢の人々に、タレスは言い値でそれを貸し出した。大儲けの彼は語ったという。
「哲学者が欲するなら、金儲けは容易である。ただ真剣に取り組むものでもない」
そう、タレスもまた金儲けが好きではなく、ただ、うまかったのである。この話は、アリストテレスの『政治学』第1巻に記録されている。ソロスが哲学者になり損ねた理由が、その真剣な取り組みにあったとすれば皮肉である。
Search
Popular Posts
-
以下では2013年にさかのぼり、フーリエ変換に一目均衡表、ギャン・アングルを用いながらドル/円の分析をおこなう。いわば、 フーリエ変換による分析の概要 の応用編である。現在のドル/円の分析については、 メールマガジン をご参照いただきたい。 一目均衡表を少しでも聞きかじっ...
-
伝説のトレーダーW. D. ギャンの分析手法の中でも、もっともよく知られているのはギャン・アングルであろう。 チャート上に45度の角度、つまりアングルで引かれたライン。価格と時間とが1対1で均衡したものとして、これを最重要の角度とギャンは考えた。この45度ラインをギャン・ライ
-
以下にご案内するのは、いまさら記事にするのも気が引ける定番である。ただ最近、ギャン理論などについてネットで調べてみて、自分にとっての常識が常識として通用していないような気もしてきた。もはや定番も定番ではないかもしれない。無論、読んだことのない初心者の方もいらっ
-
SFにはSFファンがいて、ミステリーにはミステリーファンがいる。そういった意味では、私は経済小説ファンではない。 しかし、ブログのテーマに合わせて、私が読んで面白かった作品の中から経済小説と呼べるもの10作を選んでみた。 どちらかといえば、出版年の古いものが多い。どう
-
一目均衡表を日足で使うにしても、最近では次のような主張がある。 均衡表の考案された昭和初期には、週6日の相場取引があった。つまり基本数値9は1.5週を、26は1ヶ月を表すのであり、完全週休2日となっている現在では、基本数値を7と21に修正しなければならない、云々。実際、海外製...