2016/03/31
ジョセフ・E・グランビル(写真)なる人物、統計学者でも経済学者でもなかった。元はハットン・デイリー・マーケット・ワイヤー社の記者である。
一言でいえば、毀誉褒貶の激しい金融アナリストであったらしい。ともかくも、英語圏の資料から人物像を探っていこう。英文の下に拙訳も添えておく。
グランビルは、1963年から死の直前、2013年までマーケットレターを発行していた。そこで推奨されたポートフォリオは、たまに驚くような数字を叩き出したものの、おおむね低調なパフォーマンスに終始していたという。
❝ This letter is at the bottom of the Hulbert Financial Digest's rankings for performance over the past 25 years ― having produced average losses of more than 20 percent per year on an annualized basis.
(Mark Hulbert, "Gambling on Granville," MarketWatch )
❝ 彼のマーケットレターは、年率ベースで1年あたり平均20%以上の損失を出しており、『ハルバート金融ダイジェスト』掲載のパフォーマンス・ランキングでは、過去25年以上にわたって最下位レベルにとどまっている。
彼自身は "法則" を使っていたのだろうか? 使っていたとするなら、著しく再現性を欠いており、"法則" の名で呼ぶのは大嘘と判断するしかない。使っていないものを "法則" として世に広めたのならば、それはそれで大嘘である。
❝ Granville was known as a great showman who would emerge from a coffin at an investment conference, or appear to walk across water (at a swim-ming pool) when meeting clients.
(Ed Carlson, George Lindsay and the Art of Technical Analysis: Trading Systems of a Market Master, FT Press)
❝ グランビルは偉大なショーマンとして知られており、投資会議の席上で棺桶から飛び出したり、顧客に会う際、プールの水面を歩くように見せかけたりした。
❝ His investment seminars were bizarre extravaganzas, sometimes featuring a trained chimpanzee would could play Granville's theme song "The Bag-holder's Blues," on piano. He once showed up at an investment seminar dressed as Moses, wearing a crown and carrying tablets.
(Robert J. Shiller, The Right to Tell: The Role of Mass Media in Economic Develop-ment, World Bank)
❝ 彼の投資セミナーは奇抜な見世物のようで、ときおり訓練したチンパンジーに、グランビルのテーマ曲である「塩漬けのブルース」をピアノで弾かせたりしていた。一度などは頭に王冠、手には石板というモーゼの扮装でセミナーに登場した。
❝ Granville made extravagant claims about his forecasting ability. He said he could predict earthquakes and once claimed to have predicted six of the past seven major world quakes. (Robert J. Shiller, Ibid.)
❝ グランビルは、自らの予測能力について大胆な主張をした。地震を予知できるといい、過去7回の大規模地震のうち、6回までを予知しているとも述べた。
❝ He was quoted by Time magazine as saying, "I don't think that I will ever make a serious mistake in the stock market for rest my life," and he pre-dicted that he would win the Nobel Prize in economics.
(Robert J. Shiller, Ibid.)
❝ 彼は『タイム』誌の取材に応じて、「生涯、この私が、株取引で致命的ミスを犯すはずはないね」と述べた。また、ノーベル経済学賞を受賞するだろうと明言もした。
何というか、楽しげな人物である。結局、ノーベル経済学賞の受賞対象にもならず、あの世へ旅立ってしまったことが惜しまれる。せめて科学的妥当性をもたない法則に対して、イグノーベル賞を贈ってやりたかったではないか。
急いで付け加えておくと、私はグランビルその人を大嘘つきと呼ぶつもりはない(まあ、大ボラ吹きではあるだろうが)。おそらく、彼の著書の翻訳に問題があったのである。
1962年、ダイヤモンド社より『グランビルの投資法則 ― 株価変動を最大に活用する戦略』が出版される。のちに "グランビルの法則" として有名になるアプローチの書かれているのが、これである。原題は、 A Strategy of Daily Stock Market Timing for Maximum Profit となっていて、"法則" を連想させる語などない。
迷惑な邦題のおかげで、グランビルのちょっとした思いつきが、日本では科学的妥当性を帯びた法則として広まり、珍重され続けたに違いない。しかし、その日本において、なぜ楽しく愉快な人物像が話題にならないのか、不思議である。
いや、珍重されているからこそ、人物像が伏せられたのか……?
一言でいえば、毀誉褒貶の激しい金融アナリストであったらしい。ともかくも、英語圏の資料から人物像を探っていこう。英文の下に拙訳も添えておく。
グランビルは、1963年から死の直前、2013年までマーケットレターを発行していた。そこで推奨されたポートフォリオは、たまに驚くような数字を叩き出したものの、おおむね低調なパフォーマンスに終始していたという。
❝ This letter is at the bottom of the Hulbert Financial Digest's rankings for performance over the past 25 years ― having produced average losses of more than 20 percent per year on an annualized basis.
(Mark Hulbert, "Gambling on Granville," MarketWatch )
❝ 彼のマーケットレターは、年率ベースで1年あたり平均20%以上の損失を出しており、『ハルバート金融ダイジェスト』掲載のパフォーマンス・ランキングでは、過去25年以上にわたって最下位レベルにとどまっている。
彼自身は "法則" を使っていたのだろうか? 使っていたとするなら、著しく再現性を欠いており、"法則" の名で呼ぶのは大嘘と判断するしかない。使っていないものを "法則" として世に広めたのならば、それはそれで大嘘である。
❝ Granville was known as a great showman who would emerge from a coffin at an investment conference, or appear to walk across water (at a swim-ming pool) when meeting clients.
(Ed Carlson, George Lindsay and the Art of Technical Analysis: Trading Systems of a Market Master, FT Press)
❝ グランビルは偉大なショーマンとして知られており、投資会議の席上で棺桶から飛び出したり、顧客に会う際、プールの水面を歩くように見せかけたりした。
❝ His investment seminars were bizarre extravaganzas, sometimes featuring a trained chimpanzee would could play Granville's theme song "The Bag-holder's Blues," on piano. He once showed up at an investment seminar dressed as Moses, wearing a crown and carrying tablets.
(Robert J. Shiller, The Right to Tell: The Role of Mass Media in Economic Develop-ment, World Bank)
❝ 彼の投資セミナーは奇抜な見世物のようで、ときおり訓練したチンパンジーに、グランビルのテーマ曲である「塩漬けのブルース」をピアノで弾かせたりしていた。一度などは頭に王冠、手には石板というモーゼの扮装でセミナーに登場した。
❝ Granville made extravagant claims about his forecasting ability. He said he could predict earthquakes and once claimed to have predicted six of the past seven major world quakes. (Robert J. Shiller, Ibid.)
❝ グランビルは、自らの予測能力について大胆な主張をした。地震を予知できるといい、過去7回の大規模地震のうち、6回までを予知しているとも述べた。
❝ He was quoted by Time magazine as saying, "I don't think that I will ever make a serious mistake in the stock market for rest my life," and he pre-dicted that he would win the Nobel Prize in economics.
(Robert J. Shiller, Ibid.)
❝ 彼は『タイム』誌の取材に応じて、「生涯、この私が、株取引で致命的ミスを犯すはずはないね」と述べた。また、ノーベル経済学賞を受賞するだろうと明言もした。
何というか、楽しげな人物である。結局、ノーベル経済学賞の受賞対象にもならず、あの世へ旅立ってしまったことが惜しまれる。せめて科学的妥当性をもたない法則に対して、イグノーベル賞を贈ってやりたかったではないか。
急いで付け加えておくと、私はグランビルその人を大嘘つきと呼ぶつもりはない(まあ、大ボラ吹きではあるだろうが)。おそらく、彼の著書の翻訳に問題があったのである。
1962年、ダイヤモンド社より『グランビルの投資法則 ― 株価変動を最大に活用する戦略』が出版される。のちに "グランビルの法則" として有名になるアプローチの書かれているのが、これである。原題は、 A Strategy of Daily Stock Market Timing for Maximum Profit となっていて、"法則" を連想させる語などない。
迷惑な邦題のおかげで、グランビルのちょっとした思いつきが、日本では科学的妥当性を帯びた法則として広まり、珍重され続けたに違いない。しかし、その日本において、なぜ楽しく愉快な人物像が話題にならないのか、不思議である。
いや、珍重されているからこそ、人物像が伏せられたのか……?
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