2018/02/03
Posted on 2/03/2018 by Ryoun Kasai in チューリップ・バブル, 世界経済史:断章
バブル現象は、どのようにして発生するのだろうか? なるほど、経済的繁栄は重要な発生理由かもしれない。しかし、十分条件ではない。これについて J・K・ガルブレイスは、好著『バブルの物語』の中で次のように述べている。
投機のエピソードのすべてに共通しているのは、世の中に何らか新しいものが現れた、という考えがあることである。
( J・K・ガルブレイス『新版 バブルの物語』ダイヤモンド社 )
慧眼といえる。たとえば1980年代後半に始まるバブル景気の場合、新しいものとは「財テク」であり、湾岸埋め立てによって出現した新しい土地であった。ドットコム・バブルの場合は、いうまでもなくインターネットである。
新奇な投機対象を発見した者は、自らの洞察力を誇るようになる。自分は素晴らしく先へ進んでいる。新しい事態が起こりつつあり、過去の経験はあてにならないと周囲に吹聴するようにもなる。こうして陶酔的熱病の歴史は繰り返されるのである。
チューリップは中央アジアを原産とし、16世紀、スレイマン時代のオスマン帝国で改良が加えられた花である。ヨーロッパにもたらされたのは、1550年代と推定される。
1558年の春、オジェ・ギスラン・ド・ビュスベックは、神聖ローマ帝国大使としてオスマン帝国に滞在した際、「トルコ人がトゥリパンと呼ぶ花」を目にしたらしい。チューリップの美しさを讃えたのは、ヨーロッパでは彼が最初の人物となる。
トゥリパンは、トルコ語でターバンを意味する。花びらがターバンに似ていたための形容だが、これがチューリップの語源となった。
球根を最初にヨーロッパへ持ち込んだのも、ビュスベックだとする説がある。しかし、この説は疑わしい。なぜなら1559年の春、既にドイツのある庭で、チューリップは花を咲かせていたからである(1554年の冬にも、ビュスベックはイスタンブールに赴いているが、この時期、チューリップは花を咲かせない)。
庭というのは、アウグスブルクの参事官ヨハン・ハインリッヒ・ヘルヴァルトの所有のものであり、1559年春の記録をスケッチ(上図)とともに残したのは、博物学者コンラート・ゲスナーである。
ちなみに今日、もっとも一般的な品種として知られているトゥーリパ・ゲスネリアーナ Tulipa Gesneriana の名は、このゲスナーに由来する。
チューリップを最初にヨーロッパへ持ち込んだ人物は不明のままだが、さほど重要ではないだろう。
いずれにしてもチューリップに関する記録は、以上がヨーロッパにおける最初期のものである。球根が持ち運びに適していたこともあり、その後、チューリップ栽培は国から国へと爆発的な拡がりを見せるようになる。
1582年頃にはイギリスへ運ばれ、1593年にはフランクフルト、1598年には南フランスでの開花が報告されている。 また、こうした普及とともに、分類もままならぬような交配種が次々と生み出されていった。
とはいえ、この時期のチューリップは、まだ貴族や豪商が異国情緒を楽しむためのものでしかない。無論、それなりに高額な取引がされていたはずだが、新しい投機対象として歴史に登場するのは、もう少し先のことなのである。
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