2015/12/12
平清盛が宋銭を大量に仕入れ、倭寇も密貿易に精を出して、日本に貨幣経済が根付いたのは、ようやく鎌倉時代に入ってからのこと。高利貸しなども現れて、御家人たちが借金に苦しめられたことは、中学高校の歴史の教科書でもおなじみである。
その鎌倉末期、『徒然草』の作者である兼好法師が生まれている。
『徒然草』第217段には大福長者、今でいう億万長者が登場する。名前はわからないが、あるいは高利貸しの類いであったかもしれない。「貧乏では生きる甲斐がない。金持ちであってこその人間なのだ」と、彼はその金銭哲学を語り始める。
① 現世は常住であるとの考えを堅持すべし。無常観などもってのほか。
② 有限の財産で無限の欲望を満たそうと思うな。欲望を抑えて倹約すべし。
③ 金銭を使用人と思うな。君主のように神のように畏れ敬うべし。
④ 恥をかかされても怒るな、恨むな。
⑤ 正直を旨とし、かたく約束を守るべし。
以上を心掛ければ富裕の訪れること、水の低きに流れるがごとし。宴会・音曲・女色を楽しまず、住居も飾らず、欲望を満たさずとも心穏やかに暮らせるのである。
貨幣経済の浸透は、ここまで徹底した考え方を生んだわけである。
これに対して、兼好が評していう。そもそも人は、欲望を満たすために財産を求めるのである。欲望があっても満たさず、金があっても使わないのであれば貧乏人と同じである。ならば、もともと財産などない方がましではないか。大欲は無欲に似たり。
これは大福長者への批判として読まれがちだが、そう思って読むと、やや歯切れが悪い。まるで負け惜しみのようにも聞こえる。また、この評は、もっぱら②に対してのものであり、無常観の文学を代表する彼が①に触れてないのも奇妙である。
兼好は大福長者に面白味を感じ、半ば肯定していたのではあるまいか。
大福長者さん、あんたの金銭への信仰心、まことに見上げたものだ。私などは遠く及ぶものではない。もし出家されていれば、法然上人のような一流の宗教者になっていたのではないか。しかし、あんたは出家者ではないのだから、ちょっとだけ、その貯めこんだ金銭を人生の楽しみに使ったらどうだろう……そんな風に私は読んだ。
その鎌倉末期、『徒然草』の作者である兼好法師が生まれている。
『徒然草』第217段には大福長者、今でいう億万長者が登場する。名前はわからないが、あるいは高利貸しの類いであったかもしれない。「貧乏では生きる甲斐がない。金持ちであってこその人間なのだ」と、彼はその金銭哲学を語り始める。
① 現世は常住であるとの考えを堅持すべし。無常観などもってのほか。
② 有限の財産で無限の欲望を満たそうと思うな。欲望を抑えて倹約すべし。
③ 金銭を使用人と思うな。君主のように神のように畏れ敬うべし。
④ 恥をかかされても怒るな、恨むな。
⑤ 正直を旨とし、かたく約束を守るべし。
以上を心掛ければ富裕の訪れること、水の低きに流れるがごとし。宴会・音曲・女色を楽しまず、住居も飾らず、欲望を満たさずとも心穏やかに暮らせるのである。
貨幣経済の浸透は、ここまで徹底した考え方を生んだわけである。
これに対して、兼好が評していう。そもそも人は、欲望を満たすために財産を求めるのである。欲望があっても満たさず、金があっても使わないのであれば貧乏人と同じである。ならば、もともと財産などない方がましではないか。大欲は無欲に似たり。
これは大福長者への批判として読まれがちだが、そう思って読むと、やや歯切れが悪い。まるで負け惜しみのようにも聞こえる。また、この評は、もっぱら②に対してのものであり、無常観の文学を代表する彼が①に触れてないのも奇妙である。
兼好は大福長者に面白味を感じ、半ば肯定していたのではあるまいか。
大福長者さん、あんたの金銭への信仰心、まことに見上げたものだ。私などは遠く及ぶものではない。もし出家されていれば、法然上人のような一流の宗教者になっていたのではないか。しかし、あんたは出家者ではないのだから、ちょっとだけ、その貯めこんだ金銭を人生の楽しみに使ったらどうだろう……そんな風に私は読んだ。
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