2016/03/19
ほとんど小学生並みの計算から求められる移動平均。科学と無縁のものかといえば、そんなこともない。気象学や生態学、たまに経済学でも用いられる。
移動平均とはジグザグに高下する時系列データを平滑化し、より見やすくするためのツールである。それ以上のものでも、それ以下のものでもない。そして、およそ学と名のつく分野では、「上抜けば強気、下抜けば弱気」といった使い方はしない。
「価格が移動平均より上にあるから上昇トレンドだ」と判断したならば、これはちょっと危うい。過去に安値があれば、当然のごとく平均値は下がる。われわれに確認できるのはトレンドではなく、「過去に安値があった」という事象でしかない。
「移動平均から乖離した価格は、移動平均へ回帰する」という人もいるが、転倒した考えである。価格が平均値へ近づくのではない。価格が刻々と変化し、それによって計算し直された平均値が、逆に価格の方へ近づくのである。
移動平均が不可思議な力で価格を操っているのではない。移動平均の動きこそ価格次第なのであり、理論上は永遠に乖離し続ける移動平均も考えられる。
無論、常識の範囲内にある相場では、行き過ぎた価格は短期間のうちに戻る。ならば価格が平均値に近づこうが、平均値が価格に近づこうが同じではないか。そうお考えの向きがあるかもしれないが、やはり理論上の困難がつきまとう。
気象庁ホームページをご覧いただこう。5ヶ月移動平均とは、その月、および前後2ヶ月の平均をとった値とある。そう、これが本来の移動平均の使い方である。乖離が問題となるならば、10月の海面水温と8~12月の平均とを比べなければならない。
ドル/円の日足チャート(上図)で説明しよう。2015年12月24日終値から計算される25日移動平均。それは11月20日から12月24日まで、25日間の終値の平均値となる。この平均値は本来、12月24日の12日前、12月8日に置かれるべきものなのである。
したがって乖離を利用するなら、次のような売買をしなければならない。
クリスマスの朝、移動平均を計算してみると、12月8日の終値よりも下方に乖離しているのがわかった。そこでタイムマシンに乗り、12月8日まで戻って売りを入れる。24日にはだいぶ下げて、「サンタさん、ありがとう」といった塩梅である。
12月8日の終値は、確かに移動平均よりも上方に乖離している。繰り返すが、移動平均へと回帰するために下げたのではない。12月8日の移動平均には、既に12月24日安値のデータが含まれていたために、終値との乖離が生じたのである。
さて、以上のようなズレを指摘しつつ、「移動平均には遅延が発生する」などという人もいる。正しく12月8日にあった平均値を、わざわざ12月24日まで引っぱり込んで、「おまえは遅い」と責め立てる。なにか理不尽でもある。
平均値は不平をいわないだろうから、まあ、「遅延」でもいい。 こうした遅延を解消すべく考案されたのが加重移動平均、指数移動平均であるようだ。
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